武西 良和 (たけにし よしかず)
【経歴】
個人誌「ぽとり」発行。「新現代詩」顧問、関西詩人協会評議員。
日本現代詩人会、日本詩人クラブ、日本文藝家協会会員。
詩集『わが村高畑』『きのかわ』『ねごろ寺』『武西良和詩集』『岬』など。
更科源蔵賞を受賞。
【詩を紹介】
場所 一
飛び回っている
この家の周りで何を
捜査しているのか
人の眼が行き届きにくく
壊されにくく
雨にも降られにくい
「にくく」で溢れている場所を探して
ひたすら捜査は続く
小刻みに羽を振るわせ
慎重に調査し
進行していく刑事(デカ)の仕事
長い間とじられた北側の
雨戸
家の外壁との
間
ヒトの意識が消える所
ヒトの視線は屈折しない
視線は慌てもの
間をすり抜けていく
人がいない間で
羽を振るわせ
旋回し
羽をたたむ
雷鳴にびびることもなく
雨にもおびえることのない
間
犬の吠え声も
そこではさわやかな風だ
だが大きくなっていくたびに巣は
間をはみ出し捜査の網に
引っかかる
場所 二
開いたゴミ袋に
糸を張り始めた
足の広げ方
移動の仕方に
○○蜘蛛であることを
見失わないようにしている
獲物の捕り方も
○○蜘蛛ではない
という否定表現を恐れながら
巣の上を移動する
蜘蛛は確かさを求めていた
風向きと重量を計算に入れ
紙くずや
書類の残り
丸められた新聞紙
それらのなかに
獲物が捕れる予感があった
仕掛けたのは出口なのか
巣のなかで蜘蛛は
難問にじっと耳をすませ
ときどき作業は中断される
人の入ってこない
場所で蜘蛛は巣を張りながら
哲学の問題を考え続けている
巣が完成しても
数日後に巣は
袋ごと収集車に持って行かれる
車のエンジンの音は何度も聞いて
知っているはずだ
罠と運命をともにするか